「自分を知って欲しい」という熱意
「えぇーっと、それでは、お名前だけってのも何なので、何か一言いっていただけますか?」
春4月、いろいろなものがスタートするとき。そんなときツキモノなのが自己紹介だ。
この日は子供の学童保育室の保護者会。
しかしまだお互い打ち解けぬ中にあって、饒舌に自分を語るひとは少ない。
「何か一言」と言われても、結局それは
「わからないことばかりですので宜しくお願い致します」
のような当たり障りのない言葉に終わってしまう。
そのせいか最近ではその「何か一言」にテーマを決められることが多くなったようだ。何とか己を出してもらおうという主催者側の工夫なのだろう。
前回のテーマは「子供のチャームポイントについて」だった。
自分の子供のいい点について、やや遠慮がちにお母さんたちは語る。
「元気なところ」「やさしいところ」。
正直だがありがちで月並みな言葉が並んでいった。
さて今回のテーマだが、
それは「子供の名前の由来について」。
なるほど、と思った。これは一席語りたくなるようなテーマである。
いやいや、皆さんしゃべることしゃべること。
私のお隣のお母さんなど、
「このテーマじゃ時間がかかりすぎちゃうんじゃない」と小声でささやいていたほどだ。
かく言う私も、頭の中で言いたいことを整理しながら、
自分の順番が回ってくるのを少しばかり心待ちにしている。
長々と語るお母さんの話をじれったくさえ感じる。
しかし、皆さんの語る顔のなんと輝いていたことか。
正直な話、よその子供の名前の由来など、自分にはどうでもいいようなことなのだろう。
だから聞き手のほうにはさほどの真剣さはない。
だが語る側は、自分達の子供への思い入れ、こだわり、願いについてかなり熱くなっている。それを聞き手に伝えることに大きな情熱を注いでいる。
普段から活発で目立つひとも、いつもは目立たずおとなしそうなひとも、皆同様だ。
ひととおりの紹介が終わったとき、
なんだか私は気持ちのいい爽快感に満たされた。
誰がどんな思いで我が子に名前をつけたのか、そのことはあっという間に忘れてしまったが、あの場の皆の顔の輝きはきっとずっとずっと心に残ることだろう。
どのひとのものも「自分(の思い入れ)を知って欲しい」という熱意に満ちた見事な自己紹介であったのだから。
この素敵な自己紹介から、早1年が過ぎた。
今年の保護者会ではどんなテーマが挙げられるのだろうか。
ちょっと気になる今日この頃、なのである。
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コメント
コメント、ありがとうございました。
おっしゃられるとおり、「子供の名前の由来」とは、語りたいテーマの典型ですよね。
自己紹介なんて、まず自分が語らねば何も始まらないのですもの。
そこにいる全ての人に受け入れられそうな当たり障りのないことを語るより、頬をやや紅潮させて無我夢中で語ることもときには大切なのでは?などと考えた一件でした。
投稿: ぞふぃ | 2005/04/05 12:37
僕も子供の名前については30分程度話せそうな気がします。そういう皆が関心のある共通項を掘り下げることが、コミュニケーションにはもってこいのことなのでしょう。人と人との関係は、この共通項作りに尽きるような気がします。いかに共通項を作るか、以下に共通項を見つけるかが第一です。あとは、その違いを意見したり、共感したりできればよいのですから。子供の名前の由来というのは、いい題材ですね!
投稿: bombom | 2005/04/05 00:33