ダンスとDance?
映画「Shall we ダンス?」が先週金曜日にテレビで放映されていた。
この映画は、10年ぐらい前にやはりテレビで観たきりだ。
中年サラリーマンの社交ダンス奮闘記に大いに楽しませてもらっていたことを思い出し、今回録画までして、週末に観てみた。
この時期この映画がテレビ放映されるのは、もちろん現在上映中のアメリカ版“Shall we Dance?”にあわせてのことであろう。こちらのアメリカ版の観賞はまだまだ先のこと(DVDによるレンタル開始後)になりそうだが、映画紹介やHPによるとかなりオリジナルに沿って丁寧に作られているらしい。登場人物もストーリーの展開もほぼ同じようだ。
ところが私が読んだ映画紹介記事によると、アメリカ版が日本版と違っている点は、以下の2点だという。
主人公がごく普通のサラリーマンであった日本版と違い、アメリカ版は弁護士というややステイタスの高い設定になっている点。
そしてその妻も日本版のようなパートタイマーの主婦ではなく、キャリアウーマンでストーリーの中での存在感もより大きく描かれている点。
その記事を読んだとき私は、
「やっぱりこういう点はアメリカナイズされちゃうよなあ」
などと思ったものだった。
より華やかで、きらびやかな設定への変更。
そして主人公の妻役が大女優のスーザン・サランドンで、
エンディングは夫婦愛で終わるらしいということも、いかにもアメリカ風だ。
でも「ただのサラリーマンのおじさん」が、しかも野暮の代名詞のような日本人が、華麗なるダンスの世界へ周囲の目を気にし戸惑いながらも夢中になっていく様が、オリジナル映画の真髄なのだ。
アメリカ人のカッコいい弁護士さんがダンスを隠れて習ったところで、そのなんともいえない哀愁やコミカルなニュアンスは生まれるのだろうか?という疑問はあった。
それに、最後を小奇麗に夫婦愛に持っていくのも、なんか有りがちな感じである。
というわけで、失礼ながら観てもいないアメリカ版を、やはりオリジナルにはかなわないだろうという感覚で考えていた。
だから、今回の日本版の再観賞に際し、
「あれっ」
という、ちょっと物足りない気分になる自分に改めて驚いている。
一体何が気に入らないと言うのだろう?
それは、原日出子扮する妻役の扱いであった。
初めてこの映画を観たときはまだ私は新婚気分も抜けないころだ。
子供もまだほんの赤ん坊だった。
主人公の妻は、そんな私にとって、遠い、自分とは関係のない存在だったのだ。
だが今、子を持ち、家事に支障がない程度に働き、働き盛りの忙しい夫の帰りを毎晩待つ身になって、
かなり近い立場で彼女を見ると、なにやら泣けてくる。
ラストで薔薇一輪をささげに夫がエスカレータを上がってくるというアメリカ版に無性に羨ましさすら感じる。
これが日米の夫婦愛の違いなのだろうか?
周防監督が描こうとした映画は、「疲れた中年サラリーマンに元気を与える夢の世界」の映画なのであって、ヒロインはあくまで美しく妖精のように華奢なダンス教師。
夫婦愛の話は脇のエピソードでしかない。
そのことは十分承知しているし、それだからこそこの映画がヒットしたのだとも理解している。
アメリカ版を「小奇麗に夫婦愛にもっていくなんて・・・」と批判していたくせにちょっと自分の立場が変わったくらいでこの変節は一体どうしたことか、
という別の自分の声も聞こえてくる。
だが、頭では理解していても、
なんと言えばいいのだろうか、感情が納得しないのだ。
消化しきれない小さなもやもやを抱えて、
私は後日、夫にこの感想を告げた。
「原日出子の奥さん、可哀想だった」
そしてこう付け加えたのだ。
「・・・ダンス、習いたくなったら私も誘ってね」
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
>ももママさんへ
コメントとTB、ありがとうございます。
「ハニー」とか「ダーリン」で互いに呼び合いながらその半数以上が離婚してしまうのですよね、アメリカって。だからこそ「妻」というものをより大切に描く傾向にあるのかもしれないですね。
一方の日本版はというと・・・庭の芝生での夫婦のダンスによる和解はいいとして、翌朝妻は夫をひとりパーティーへ行かせるためにわざわざ遠くに買い物に出掛けるなんて本当に日本的。これが日本の妻なのかな・・・うーん考えてみると、確かに、自分も含めそのとおりのような気もします(笑)。
>桐生忠太さんへ
ブログ拝見いたしました。
ダンスをやっていらっしゃる方からのコメント、本当に光栄です。
すみません、実は放映開始後気が付いたので、録画は最初のレッスンが終了して居酒屋にいるシーンからのみなのです。珠子先生のリズムカウントはそれより前になるのではないかと・・・お役に立てなくてすみません。
リメイク版のキャッチコピーは確かによくよく考えると「?」ですよね。
公式HPによるとリメイク版のコンセプト「何不足ない都会のホワイトカラーの漠然たる虚無感からの解放」によるものらしいのです。日本人特有のダンスへの抵抗感のかわりに、成功者でありながら幸せになりきれないアメリカン・リッチマンの罪悪感をテーマに据えることでのアメリカ版へのリメイク、とね。
でも、それを読んでも「そんな理屈をこねなくても」って気もします。
「やっぱり日本市場を見越したリメイクってことかな、日本映画の秀作がハリウッドでゴージャスにリメイクなんて日本人皆喜んじゃいそうだもの」なんてうがった見方をする私はひねくれ者ですね。
いずれにせよ劇場で観賞したひとの評価はおおむね高いですから、アメリカ版も秀作であることは確かのようです。(全米でも結構な制作費を上回る興行利益を生み出していたようですし・・・)
投稿: ぞふぃ | 2005/05/12 16:34
タイトルに引かれてお邪魔しました
NBSアラートからたどり着きました
ダンスとDance?......上手なタイトルですね まさか映画の事とは思いませんでした 語彙に関するウンチクかと
主婦の方の心の機微がうかがえて男子とは違う点を教えられた気持ちです
お願いがあるのですが...... ダンスの方で珠子先生がブルースを教えながら発するリズムカウントの時間的長さを 確かめていただけないでしょうか? スロ・スロ・クイック・クイックと【Q・Q・Q・Q】のタイミングで口で発声したように 眠気の中で私は健康ランドで見たのです
主婦の琴線に触れるような素敵なブログですね
リメイク版のキャッチコピーが私にはぴんと来ませんが
『幸せに飽きたらダンスを習おう』??
不幸せに飽きたからダンスを習った私でした
お子様が中学生になり 手がかからなくなりましたら ご主人に内緒でダンス始めませんか?♪
投稿: 桐生忠太 | 2005/05/12 11:33
はじめまして。TBさせてもらいました。
夫婦愛に話の中心が行ってしまうのは「あ~、ハリウッド的ハッピーエンドだな」とちょっとがっかりしたけど、良く考えてみたら離婚のものすごく多いアメリカ。最後まで連れ添えないことが、とんでもなく多いわけで、タキシードでめかしこんだ夫が華麗に登場するシーンはアメリカ人にとっても「夢」なのかも・・・と後から思いつきました。いかが?
投稿: ももママ | 2005/05/12 09:22
コメントをどうもありがとうございました。
たいていは主人公の気持ちになってストーリーを追っていくものなのでしょうけれどもね。
今回はあまりにも似通ったシュチェーションだったからなのかもしれません。
意識して別の立場に立った気になって、世の出来事を見つめなおしてみるのもいいことかも、などとGchanさんのコメントを拝読して思いました。
投稿: ぞふぃ | 2005/05/11 18:37
はじめまして。ココログのトップページから来ました、通りすがりです。
そういうことってありますよね。私も近頃、子供の頃に見ていたアニメの再放送を見ていますが、当時は「なんて物分りの悪い親!」と思って見ていたのに、今は「なんだこの、聞き分けのない子供は……」と思ってみてますし(笑)。世の中にある色んな事件も、立場が違えば三者三様に見えるのでしょうね。
投稿: Gchan | 2005/05/11 17:38