「夏服の少女たち」
・・・今日、前髪を初めて分けてみた。
・・・鏡に映る自分は別の人のようで、少し照れくさかった。
・・・初めて髪を分けた、
今日という日を一生忘れないでいよう・・・
これはある少女の日記の一節である。
(残念ながら正確に記憶してはいないので、一字一句確かというわけではないのだが)
一生忘れない、と言っていたその少女は、
それからおよそ4ヵ月後の昭和20年8月6日、広島でその一生を終える。
学徒動員で街の建物の取り壊し作業に従事していた最中のことだった。
彼女だけではない。
彼女が所属した広島第一高等女学校一年生220人全てが、
そのときの被爆により命を失っている。
それから43年後、
そして今から17年前の夏、
とあるドキュメンタリー番組の中、私はこの日記のことを知った。
・・・初めて髪を分けた、
今日という日を一生忘れないでいよう・・・
その言葉のなんと瑞々しく、初々しいことか。
おとなになるうれしさ、とまどい、はじらい。
そして季節は春から初夏へと移りゆく。
少女たちは自分たちの夏の制服を作り始めるのだ。
物資不足の折から、母の古着をほどいて染め直して。
やがて制服は完成し、その喜びに少女たちは皆で歌った。
うのはなの におうかきねに
ほととぎす はやもきなきて
しのびね もらす
なつは きぬ
この『夏は来ぬ』(佐々木信綱作詞)のうたごえとともに、
あとわずかの日々しか残されていなかった彼女たちの人生のはかなさゆえに、
それから長く長くこの日記の言葉は、私の心に住みつづけた。
そして一昨昨日(さきおととい)の日曜深夜、
このうたごえと彼女の日記に私は再び巡り会うことができたのであった。
NHKアーカイブスでドキュメンタリー『夏服の少女たち』が再放映されていた。
・・・初めて髪を分けた、
今日という日を一生忘れないでいよう・・・
・・・17年前と同じだった
・・・涙が溢れ出そうだった
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コメント
本当に、私も偶然この再放映を知った次第で、また観ることができたことをとても嬉しく思いました。nofumoさんも機会があったら是非一度観てみてください。
おもいっきり自分の感傷にひたっているような文章なのに、コメントをつけていただいてありがとうございました。
投稿: ぞふぃ | 2005/06/09 12:29
惜しい番組を見逃してしまいました。この記事を書かれている時の、ぞふぃさんの心情が伝わってきます。再々放送を期待します。
健康をもて余しているような人間が、この場に書くのは少し不謹慎かもしれませんが、少女の日記を見て、はじめて口紅をつけた時を思い出しました。
投稿: nofumo | 2005/06/08 22:45