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2005/10/27

冷静におなりなさい

 開演を前に、その見知らぬ彼女は一生懸命に頭を下げていた。

 多分愛する我が子の大事な晴れ舞台なのであろう。
 それは、彼女が招待した大切な来賓に対しての精一杯の礼を尽くす姿、であったのだ。
 
 でもその姿を遠目に見ながら私が思ったこと。
 「こんなにも母子一生懸命にならねば、
 この世界はやっていけないものなのか。
 そうだとしたら私にはとても出来そうにないし、
 やりたくもないなあ・・・」
 それはそんな冷笑に満ちた不遜なことだったのだ。

 それから1年あまりがたち、今度は私の子供が舞台に立つことになった。
 その機会が与えられることを知ったとき、
 子供は喜び張り切ったし私もその僅かな栄誉(?)に少し酔いしれた。
 出来る限りのサポートをしようと心がけ、
 母子共にこの舞台に夢中になったと言っても過言ではないのかもしれない。

 そう、私も1年前のその彼女と寸分も変わらぬ親ばかであり、
 子の夢を自分の夢と錯覚する哀れなる母親、
 ―自分が最もなりたくないと思う典型的母親―
 だったのだ。

 舞台はつつがなく終わり、
 その余韻が残る中お世話になった指導の先生方に、
 ロビーで私は頭を下げていた。
 その下げる頭の中に、
 あのときの彼女の姿がフラッシュバックする。

 彼女もこんな気持ちだったのか?
 顔に上った血潮による熱気、高ぶる気持ち、
 「僅かでもいい、これからもこの子に目をかけてやってください」
 という姑息な計算、などなど。

 これから先、
 こんな機会がまた巡ってくることがあったとして、
 多分そのときの私の頭には
 またあの彼女の懸命に頭を下げる姿が浮かんでくることだろう。


 その姿が私に

 「冷静におなりなさい」

 と、冷たく言い放ってくれることを
 今は切に願うのみだ。

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コメント

涼さん、こちらにもコメントをありがとうございます。
コメントを拝読して、子育て時代と青春時代って似ているような気がしてきました。
全く「・・・道に迷っているばかり・・・」です。

投稿: ぞふぃ | 2005/11/04 13:09

お久しぶりです。

∥親の言う通りに一生懸命やるのも小さいうちだけですよね

だし、

∥素直に喜ぶ親の姿もまた好いものですしね。

だと思います。

引用ばかりでごめんなさい。只今子育て真っ最中のみなさまに、エールを送ります。

kakoさん、

時にうんと感情的になって、ご自分をさらけ出されるのもいいと思いますよ。

投稿: | 2005/11/03 22:25

ゴトウさん、コメントありがとうございました。
そう、わが子の晴れ姿(なんか古い言い回しですね)を見るのはとてもうれしいものなのですが、なんと言うか・・・そう結局この晴がましさは「子供」のものであり、「私」のものではないということを、肝に銘じたかった、というのがこの記事の主旨のつもりだったのです。
でもだんだんわからなくなりました。何もそんな屁理屈をつけなくとも、素直に喜ぶ親の姿もまた好いものですしね。
実際のところ、「いいひとぶりすぎ」っていうのが正しいとこなのでしょうね。

投稿: ぞふぃ | 2005/10/28 18:58

ぞふぃさん、こんばんは。
私もいいなーって思います。羨ましい!ウチの猫も芸をするなら、思いっきり自慢したいと思いますよ(笑)。
自分自身を振り返るに、親の言う通りに一生懸命やるのも小さいうちだけですよね。今しかできない経験を楽しんでくださいね!

投稿: ゴトウ | 2005/10/27 21:25

Kakoさん、早速の反応ありがとうございます。

そうですね。
確かにこういう場合、親として「冷静じゃない」ことは微笑ましいし、ある意味正しい姿だと思います。
ダメなんかじゃありませんよ(笑)!
コメントを拝読して、「冷静になりたい」というのはむしろ「母親としてではない私」という人間のエゴのような気がしてきました。

投稿: ぞふぃ | 2005/10/27 18:15

ぞふぃさん、こんにちは。
私はいいと思います。
冷静なんかじゃなくても。
だって、親なんですもの。

・・って思っているから、ダメなのかな(笑)

投稿: Kako | 2005/10/27 17:56

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