「貴人」の憂い、「しもじも」の幸せ
GW真っ盛りの5月1日、東京駅新幹線ホーム。
帰省のための下り列車を待つ人々の列に我が家も並ぶ。
並んでいる人の数から、
さほどの混雑ではなさそうと
ホッとしているところに列車は入って来たのだが、
なかなか扉は開かない。
ま、車内清掃とかいろいろあるんだろうな、
などとあまり気にも留めずにいたところ
「ご乗車はもう少々お待ちください」などと
駅員さんたちが口々に叫んでいる。
(……ん? なんか妙に丁寧、そして緊張してる……?)
と思っているとホームの端のほうから
ぞろぞろとスーツ姿の男性の一団がやって来たのだ。
(そうか、VIPがいるんだな。)
と気づいてまもなく
テレビで見慣れた皇太子殿下の笑顔が垣間見え、
続いてそのご家族の姿もまた目に映る。
御料牧場でのご静養のための出立だったらしい。
外交的に完璧な笑顔、それはご夫婦そろって一緒である。
いつものように……。
ただアイコサマだけが子供らしく固い表情をされていた。
それはほんとうにテレビとおんなじだったのだ。
そのテレビ映像により刷り込まれた既視感ゆえか。
自分と5mと離れていないところを
笑みを浮かべながら歩くマサコサマに
「しもじも」の悲しさかな、
私はつい、手を振ってしまう。
そんなところで手なんか振ったのは私だけだったのだが。
だが、
マサコサマはそのひとりの「しもじも」に手を振り返す。
親愛でもなく、義務でもなく
多分それは完全なる習慣だったのだろう。
この先も、この方は
何千人、何万人もの見知らぬ「しもじも」に手を振り返すのだ。
……
それは、ほんの数秒の出来事だった。
あっというまにその人だかりは去っていき、
後に残ったのは、
アイコサマの白いワンピースと、意外と高いその背のこと、
マサコサマは腰まで髪を伸ばしていたのだな、ということ。
そんなつまんないことを
思い起こしながら「しもじも」である私は
ご一家と同じ新幹線に乗り込み、
夫のふるさとに帰省する。
ちょうどそのときは下を向いていて「ご一家」を見損ねた我娘に
「ひとりだけ手振ったなんて恥ずかしいー」
などとからかわれながらも、
それでも
「ちょっとしあわせ」
に浸りながら……
| 固定リンク