最もポピュラーな裏切り者、ユダ
「駆け込み訴え」、
イエスを裏切った弟子、イスカリオテのユダの独白のみで綴られた太宰の短編。
その中には
息苦しいほどのイエスへの愛憎が語られている……
今週はじめ、
この作品を女子高生たちの映像で表現する番組を観ました。
それで、ああ上手いなぁと……
女子高生の集団って
なんかそういうカルト教団っぽい変な息苦しさのイメージ、あるじゃないですか。
そういう中で一人の人気者に向けられる異常なる執着、愛、嫉妬。
……
で、
この作品に触れてみて思ったのは、
人間ってなんだかんだ言って
イエスを売った裏切り者「イスカリオテのユダ」が好きなんだ、ってこと。
いや、「好き」というのには語弊があるか、
兎に角「気になってならない人」であることは確かのようです。
古より
彼はさまざまな描かれ方をしていますよね。
いわゆる子供向けの聖書物語に出てくるような
「そこの浅いケチな悪人」から、
「イエスの教えに限界を感じた行動の人」、
または
「イエスの犠牲の手助けをした最も忠実な弟子」……
でも
ひとに最も好まれるのは
この「駆け込み訴え」のユダ、なんじゃないでしょうか。
イエスに恋焦がれるように異常なほどの愛情をもち
嫉妬ゆえに裏切りに至る、
この自意識過剰で臆病な男に
世の自意識過剰で臆病な多くの人々は共感し
その物語をむさぼり読むのです。
愛する人の素晴らしさに比べて
自分はかくも卑しい存在であることへの
身もだえするような苦悩、
可愛さあまって憎さ百倍、
結果、愛しすぎたゆえの背信へと繋がる。
うわっ、こう書いていると
気恥ずかしくなるぐらい少女趣味の世界ですね。
太宰の素晴らしいところは
かくも耽美で虚無な少女世界を
おじさんおばさんも受け入れられるような文学として
形にしたところなのかもしれません。
いやむしろ、
人はみな、
たとえ男であれ女であれ
残酷で勝手でもろい「少女の部分」を抱えて生きている
ってことなのでしょうか?
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